コラム

日本人へのケタミンの抗うつ効果を示す論文【慶応大学】

タイトル

「日本人治療抵抗性うつ病に対するケタミン静注の有効性と安全性:慶應大の二重盲検ランダム化比較試験結果」


治療抵抗性うつ病(TRD)に対し、北米や欧州で注目されているケタミン静脈内投与。しかし、アジア人—特に日本人—を対象とした有効性と安全性のエビデンスは、これまで不十分でした。本記事では、2024年8月に発表された慶應義塾大学・大谷洋平氏らによる日本人TRD患者を対象とした二重盲検ランダム化プラセボ対照試験の結果を解説します。

試験概要

  • 対象・背景:治療抵抗性うつ病(TRD)の日本人患者34名を対象に実施

  • デザイン:ケタミン群(0.5 mg/kg)またはプラセボ群にランダム割付。2週間、週2回、40分間の静脈内投与を実施

  • 評価方法

    • 主要アウトカム:MADRS(Montgomery‑Åsberg Depression Rating Scale)スコアの変化量。

    • 副次アウトカム:他のうつ症状スケール、寛解率、治療反応率、部分反応率、臨床人口統計との相関など

結果

この試験では、主要評価項目であるうつ症状の改善度(MADRSスコアの変化)を比較しました。

  • すべての参加者を対象にした解析(ITT解析)では、ケタミン投与群のスコア改善は平均−8.1点、プラセボ群は−2.5点でした。ケタミン群の方が改善幅は大きかったものの、統計学的には「有意差あり」とまでは言えませんでした(p=0.052)。

  • 一方で、最後まで治療を受けた患者だけを対象にした解析(per-protocol解析)では、ケタミン群は平均−9.1点、プラセボ群は−2.7点と差が広がり、こちらは有意にケタミンの方が効果的という結果になりました(p=0.034)。

副次アウトカム(寛解率や反応率など)では、両群に明確な差は見られませんでした。安全性に関しては、ケタミン群で一時的な副作用の発現が多かったものの、重篤な有害事象は認められませんでした。また、もともと症状が重い人やBMIが高い人ほど改善しやすい傾向も確認されています。

 

まとめ

「日本人の治療抵抗性うつ病患者において、ケタミン静注はプラセボより効果が高い可能性がある」という結果で、安全性にも大きな問題はなかった、ということになります。


参考文献
Ohtani Y, et al. Efficacy and safety of intravenous ketamine treatment in Japanese patients with treatment-resistant depression: A double-blind, randomized, placebo-controlled trial. Psychiatry Clin Neurosci. 2024 Dec;78(12):765-775. 

日本人へのケタミンの抗うつ効果を示す論文【慶応大学】
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