コラム

ECT(電気痙攣療法)とは?

近年、薬物治療に代わる新しいメンタル医療として注目されてているニューロモデュレーションですが、実はその歴史は古く、また、一口にニューロモデュレーション医療と言っても、いくつか治療法があります。今回は、ニューロモデュレーション医療の中でも、精神科医療機関で保険適応として最も一般的に行われているECT(電気痙攣療法)について解説します。

ECTとは?

ECTとは、電気痙攣療法という名前の通り、麻酔薬で一時的に眠った状態にし、同時に筋弛緩薬を使うことで全身の筋肉に対する痙攣発作を抑制した状態で、電気ショックを与え、脳に対して意図的に痙攣作用をもたらすことで、うつ病などの精神疾患に改善効果をもたらそうとする治療です。

そのメカニズムは、完全には解明されていませんが、強力な電気刺激による脳神経の機能的なネットワークの改善や、BDNF産生、神経可塑性等が関連していると考えらえています。

ECTのメリット

精神疾患に対する電気治療の歴史は古く、実は精神分析などの心理療法よりも前の19世紀後半より行われていました。当時は、頭脳労働階級(今でいうサラリーマン)の神経衰弱の患者さんに用いられていたようです。それは、ちょうどエジソンが電球を発明した時代です。

ECTは難治性重症うつ病の保健適応が通っている治療です。薬に対して全く効果がなかった重症うつ病の患者さんが劇的に改善する魔法のような治療として、私自身もECTの強力な効果を何度も目の当たりにしてきました。TMSやtDCS等の他のニューロモデュレーション医療と比較しても電気刺激が格段に強力である為、その分、治療効果も高いと言えます。しかし、ECTにもデメリットもあります。

ECTのデメリット

まず、大がかりであることです。ECT治療を行うためには、基本的に入院が可能な医療機関に入院しながら行う必要があります。(外来ECTをやっているクリニックも無くはないみたいですが)また、施行に際しても、筋弛緩薬や鎮静薬を利用した全身麻酔下で行う必要があります。そのため、電気ショックのリスクに加え、全身麻酔のリスクを伴うため持病や身体状態によっては施行が困難となります。

また、毎回、全身麻酔の薬を投与する為の点滴ルートを取る必要があるため、その度に患者さんは点滴用の針を刺され、痛い思いをしなければならないことなどがデメリットとしては挙げられます。

さらに、本人が希望すれば必ず実施できるわけではなく、複数の薬剤を充分期間、充分量試しても症状が改善しない重症うつ病等が保険適応の対象とされています。

また、ECTは、脳の特定の部位だけに電気刺激を与えることができないため、脳全体に対して広く電気を加えます。

つまり、脳のどの部位にどれだけの刺激が伝わるか、どのように刺激が拡がるかまでは細かくコントロールすることが出来ず、短期的な記憶障害やその他の正常な部位にも電気刺激を加えてしまうリスクも考えられます。そういった意味では、極めてアナログな治療方法であることは否めません。

さらに、患者さんの頭の形などによっても、効果の程度が変わってしまったり、せっかく施行したのに有効な痙攣発作が生じず、空打ちになってしまったり、施術者の力量や経験によってもムラが生じる可能性があります。せっかくECTを実施しても、その効果が長く持続しないという個人差の問題もあります。

私は元麻酔科医の精神科医として、重症うつ病などの患者さんに対して、年間500件を超えるECTを医療機関でお手伝いさせて頂いておりますので、ECTを実施することの出来る適切な医療機関をご紹介させて頂くことも可能です。

ECT(電気痙攣療法)とは?
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